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“ 佐渡に来たよ! ”
佐渡島篇 #80
Photos, essay by T. T. Tanaka
Local / 2024.11.19
“おじいちゃんとおんなじ名前だー!”
世の中で人の動きが極端に少なかったコロナ禍の頃(もう大分前の感覚になっちゃったけど)、何気で日本地図をスマホで拡大したり縮小したりみていてふと日本海の佐渡島に来ようと思ったのだった。
新潟からジェットフォイル船で北に1時間で到着した島は東京23区よりも広かった。カタカナの「エ」の字の形の島は横に二本高い山々がそびえ、はさまれた真ん中は大きな平野。まわりは日本海。
僕は初めての広めのエリアを訪問すると、とにかくまず突端まで到達したいと思ってしまう。予約しておいたレンタカーで港から早速出発。所要時間90分との表示。島の北西端に、西海岸沿いで向かった。途中、わっ! すごっ! という景色が目に入ったんだけど、止まらず、頭の中で「後で忘れずに来るリスト」にインプットして、我慢して走り続けた。 でも、一ヶ所は休憩停車。
えーっと、ここは海岸近くの石名清水寺(いしなせいすいじ)。ドアをあけて思いっきり背中を伸ばして深呼吸したら気持ちのいい境内。

陽が傾いてちょっとひんやりした空気の中、子供たちのはしゃぐ声。あら、足元にトコトコと猫ちゃん。すぐ後ろに女の子。猫ちゃんは僕の足元に来てほら、こんな感じ。
女の子;「こんにちはー。この子ね、人懐っこいの。ほらね。ここに来るといつも一緒。」
僕;「このお寺でよく遊ぶの?」
女の子:「そうなの。あ、どこから来たの? 旅行? 名前なんていうの?」
僕;「うん。東京からなの。僕の名前は〇〇〇」
女の子;「えー。おじいちゃんとおんなじ名前だー! わたしは △△、あそこにいる子は□□□なの。」
僕;「ここ、広くって気持ちいいね~」
女の子;「奥に水流れているのよ。」


猫ちゃんもこんな感じで旅人に興味津々。

すごい枝ぶりの大きな銀杏(イチョウ)。入り口に雄・雌一本ずつ。高さは20mを超えているね。この海岸通りではあまり見なかった銀杏。緑いっぱいの時や、金色で輝く時に是非みたいよー。すごいだろうなあ。

幹の元にたくさんの微笑のお地蔵さんが・・・。
この大銀杏の木は、観音様に助けられた人がそのお告げに従って種を蒔いたら見事に育ったものらしい。その後、子供も授かったとのこと。佐渡市の天然記念物で「子授け銀杏」とも「胃腸病の霊現」とも言われている。

あ、脇にまわってみたら、静かに染み出る湧き水。女の子△△の言ってたお水ね。この水、佐渡の三霊山の一つ、壇特山(だんとくさん)(907m)からの霊水とのこと。春になったら気持ちよくオタマジャクシもメダカも育ちそう。今はサルスベリの枝がひっそり水面に映っている。

入口に苔蒸した碑があった。佐渡四国八十八か所霊場とある。807年に開かれ、1790年頃に木喰(もくじき)上人という人が釈迦堂を再建している。
※拝むことができなかったけど、ここには木喰(もくじき)上人が彫った微笑む地蔵尊立像と薬師如来坐像がある。木喰上人は享保3年 (1718) に生まれ、22歳で仏門に入った。45歳の時に常陸の国で木食戒を受けた。木食戒とは五穀と魚、火食と塩味を断った修行。上人は生涯この戒を守り、56歳から全国をまわり93歳でなくなるまでに1,000体超の仏像を彫り続けた。その仏像は独特の笑みをもち、“微笑仏”ともいわれる。ここの仏像は65歳の作。

さ、行こうかな。あれ、女の子、どこ行ったかしら・・?
あ、猫ちゃんの向こうに立ってダンスの練習・・。
僕;「ありがとー。じゃねー。元気でね。バイバイー」 微笑。
“億千万・・・”

西北端に大分近づいてきた。これでもかの激しい出入りと絶壁続きの海岸線だったんだけどなんだか一気に景色が変わってきた。 海岸に飛来して一服するカモメ。その仕草が可愛い。


残る杭の上空。
ゆーったり飛翔するトンビ。
ぐるーっと海岸線のカーブをまがると・・・

いきなり大草原のような中にこんもりした巨大な岩が現れた。
これが大野亀(オオノガメ)。なんと、波打ち際から上まで167mが一つの岩で、日本三大巨岩の一つとされている。

わっ。直立した岩肌。

えーっ。上を見ると石塔が・・! 結構大きくて3m近くはありそうだ。調べてみたら明治時代に、海の守護神「龍神」を祀る曹洞宗の善寶寺(山形県鶴岡市龍澤山)の御札が納められたとのこと。あそこは漁に出る人達から見える場所なんだね。

岩肌と石塔をすごい、すごいと見上げていたら、まるでタイムマシーンのようにいきなりジェット機がクロスしていった。

亀-カメはカミ-神、アイヌ語のカムイ に通ずるとされる。
はるか昔から神聖なる場所として祈られてきた場所。思わず深呼吸。鳥居の向こうに石塔のある岩の頂上が見えている。




この角度からみるとまるで草原のような表面に道が続いている感じ。だけど・・

岩肌を望遠でのぞくとびっくり・・・ これ、1億年前に地中深くから上昇したマグマ。これが地表近くで冷えて固まった。そのかたまりは300万年前から断続的に隆起して盛り上がってきた。その後、風雨でまわりが削られて今の形に残ったんだそう。隆起は今でも続いていて、江戸時代には大きく二回、激しい津波も・・。
この岩肌がそんな古いマグマそのものだと思うと愕然・・

石塔より更に上のてっぺんを望遠レンズでピンポイントで見ると・・・ 木が密集したすごい尖がり。

海まで落ちているマグマ跡の岩肌。
上から覗くと、海面からわきあがる音が全身に迫ってくる。ホワイトノイズに、ときおりうなるような低い音がまざる。
押し寄せる白波たち。そこに陽が当たると一瞬にコバルトブルーになる。
濃い岩肌、明るい色の波。コントラストがすごい。

この亀さんから更に北を見るとそこにもまた亀さんが・・・
あれが二ツ亀なのね。行くよ。
“二ツ亀”
大野亀から2kmぐらい行くと佐渡の西北端の二ツ亀となる。
来た方向を振り返ると、わっ、大野亀。先端はこうなっているのね。のこぎりの刃、いや、ワニの背中みたい。


標識があった!
方向も距離もわかって面白い。
佐渡・東京は310km、佐渡・大阪は480km。
思っていたより大分距離がある感じよね。
ちなみに、
東京・名古屋は340km、東京・京都が460km。
佐渡・新潟は60kmしかないんだけどね。ロシアのウラジオストックまで770kmか・・

さ、浜まで行こう! 目の前が巨大な二ツ亀の岩。
フランスのモンサンミッシェルみたいに引き潮だと砂浜でつながっていて亀さんまで歩いて行ける。
浜までは結構下りてゆく感じ。下から吹き上がってくる風が気持ちいい。

浜は歩くとサクサク。
あまり足がもぐらない堅めのちょっと濃い色の砂。足跡がないのは気持ちいい。
そして、コロンコロンと姿を見せるさまざまな色の石に遭遇できる。
左の海と右の海。それぞれ押し寄せる波音が違って面白い。

左側の海岸には、白ーいモコモコとした岩。後ろにマグマの噴いたあとの亀さん、二ツ亀。

更に歩くとその前に広がる遠浅のビーチ。
白波。寄せる度に色んな形を見せては消えてゆく。

迫ってきた亀さんの甲羅にはマグマの巨大なリングのような跡が残る。

この辺は堅そうな「甲羅」。

でも海に近い下の方の表面はもろい粘土のようで触るとボロボロと落ちてしまう。その上に松葉が波に乗ってきたのか、風に舞ってきたのか、ポチっと貼りついている・・・

三つ並べてみた。水際でみつけた三角形の尖がった巻貝たち。

こちらは流れ着いた縄にしっかりくっついている二枚貝たち。

ふかふかのクッションみたいな緑藻も。

元気一杯に光をあびて光っている。

見上げると暗くなり始めた空。口笛を吹くように鳶(トンビ)が飛んでゆく・・


亀さん達のシルエットが藍色の、そして紫に変わった空に溶け込んでゆく。雲の合間にほんのりピンク色がにじんできた。

今日はサンセットは見えなかったけど、海から空へのグラデーションは美しかった。
穏やかな広い大きな海を見れると幸せな気分になれた。
ありがとう。佐渡。
明日からどんなドラマに遭遇するだろう?
“佐渡に来たよ! ”
気が付いたら興奮して思いっきり佐渡を楽しんでいる自分がいた。
訪れたのは2年間に4回も。それぞれの季節でタイムマシーンに乗っているみたいで面白かった・・ その佐渡での様々な遭遇を今回からのコラムで皆さんとシェアしていきますね。
今回はその東京23区より広い巨大な島の西北端。
そこには巨大な亀さんたち。
旅をすると普段目にしていないものに遭遇したりします。
それらはその時点より過去のものだから、さかのぼった時を味わう感じも・・・
自分の歩んできた時間、その前の時代、もっともっと前の時代・・・
そんなさかのぼり遭遇があったりするととっても面白い。
で、この佐渡。
ここでは時のさかのぼりが1億年前にまで行ってしまうのだ。
そう、地球の歴史まで・・・
体験する時のスパンがあまりにも大きくて色々な時を巡るのだ。
これから、この北の島でどんな旅が、遭遇が待ち受けているか、期待してくださいねー!!
Photos, essay by T. T. Tanaka
