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“ 小佐渡の大ドラマ ”
佐渡島篇 #83
Photos, essay by T. T. Tanaka
Local / 2025.02.19
“ 月面のタケノコ? ”
えーーーっ ここは何?!

海岸沿いにボコボコした大きな枕のようなものが平らにずらーっとつながっている。
行ったことがないのに月面みたい・・と思ってしまった。
佐渡の地形を「エ」の字みたいとすると、その下の横棒(小佐渡という。上の横棒は大佐渡という)の左端あたり。佐渡の最西橋エリア。
10mほど奥に尖がった岩が。

これがその岩でタケノコ岩といわれている。大人の身長以上だけど少し前までこのタケノコ、もっと尖がっていたみたい。表面は不思議な まあるい模様で覆われていてそのまままわりとつながっていっている。
この一帯は枕状溶岩。1300~2000万年前、海底噴火があり、玄武岩質の粘り気の少ない溶岩が流れ出した。その表面は瞬時に海水で冷やされて固まった。が、閉じ込められた内部は高温のままで、それがまわりを溶かして流れ出た。これが繰り返されて枕が積み重なったような溶岩の流状痕が出来あがったらしい。そして数百万年前からその海底が隆起を続け、海綿状に姿を現した! ここの規模や質の高さは世界的な地質遺産として注目されているとのこと。すご。

隆起した海底は波食台といわれる。時折、波が打ちつけ、潮が干くと、ひろーく姿を現す。海苔が育って岩海苔の絶好の採集場所でもあるんだ。でも冬は寒いし、足元はすべりやすいし・・。でも、この海苔、味に深みもあって美味しい!! すごい海苔畑からの恵み・・・

立ち尽くして呆然としていたら足元でチラっと動くものが・・・
あら、岩カニかしら? 構えるとススススっとすぐ隠れてしまう。3分以上じーっと待っていたらホラ、こんな感じで姿を・・・

奥の尖がった三角形は神子岩。地球の中心部のマントル!にある岩(ピクライト玄武岩質)なのだそうでマグマが噴いて通った跡がわかるらしい・・!!
どこまでもどこまでも次々に枕が・・・
2000万年前の海底を歩いていると思うと不思議な感じになってくる・・・
そして、更に1000mほど車で北に移動してみると・・・

キリン岩(潜岩くぐり岩)というものが・・。この辺りも枕状溶岩なんだけどこれは海底火山噴火のまさに中心部分!らしいのだ。

この白い痕でどちら方向に流れて噴いていったかがわかるんだそう。
初めてこういう海底噴火の紋様に遭遇した・・
またも呆然・・・ ここではなんか違う時間が動いている感じ・・
さあ、車に戻ろうかね・・と思って左回転・・・えっ!!

岩海苔の上をピョンピョンと跳ねるものが・・・

ちょっとモコモコして、あら、堤防の側を上ってゆく・・

あら、土管の上でしばしストップ。
イタチのような・・

わー、道路に出てきた・・
こっち来るよーーーーー

わっ! 僕の真横に・・・
お尻をヒョコっヒョコっと持ち上げながら走ってきてこちらを一瞬じっとみた。
この子はテンみたい。ふさふさして綺麗な毛。
ここでくるっと90度回転したと思ったら後ろの斜面を駆け上がって繁みに消えていった・・
佐渡にはイタチとテンの2種のイタチ科が棲息しているらしい。もともとイタチはいたんだけどテンは1959年にやってきたみたい。テンは正倉院にそのミイラがあるんだって。綺麗なふかふかの毛がまだ僕の脳裏でモコモコとよみがえる。
うん。この子は2000万年前の枕をまたいできたけど、今の時代の子。
“ ながーい砂浜!! ”
更に北に車で数分ほど北に向かうとガラッと景色が変わった。
遠浅が一面に広がる海が見えてくるのだ。


波打ち際にはコロンと流れ着いた木の実。クルミかしら?
ここは素浜(そばま)というところ。4kmも続く佐渡で一番長い砂浜。
波音がやさしく心地いい。

透き通った海水の底には何本もせせらぎが流れているかのような縞模様。

波が打ち寄せた跡も何本も見えて面白い。

わー大きな石! っと思ったら、牡蠣殻。
湾曲した、白ーい色が綺麗。だけど、これ、どれだけ大きな牡蠣なんだろう。

頬に風があたると同時に砂浜をふわんふわんと転がってきたものが・・・
何だと思ったら海藻の一部がはがれてかわいたもの。
形が綺麗で襟元とか胸元とかに素敵につけてみたい・・・

あれ、これは巻貝よね。
ぐるんぐるんと渦巻が・・・

この石はなーに?
どうしてまあるい小さな穴があいているんだろう?
どうやって穴が開いたのか・・?

おっと、こっちの石は・・!
真ん中でスパンと割れてそのままの状態で砂の上で眠っていた。

なんと、あちこちにこんな割れた石が・・・
こっちは、ほら・・・・
色が違う中身が見える。
美味しいお饅頭みたい・・・

こっちの石は割れてなかったけど、縞がカラフルできれい。
拾っては感心、また拾ってはビックリ・・・
ここの砂浜をあるいているだけでいろんな楽しい時間が過ぎてゆく。

そろそろ次に行かなくっちゃ・・と思ってくるっとターンしたら、
両手にちょうど入る大きさのすべすべした石の上に何かが急に止まった・・
クモちゃん。僕の方をじっと見ていたんだね。
石のてっぺんからの砂浜景色と海景色。今日はどんな感じ?
そうか・・・ もしかしたら変なノッポの人間との遭遇が今日の一番のドラマだったかもしれないね。
“ 日本海に沈む太陽 ”
陽が傾いてきた。これは素敵な日没になりそう・・
どこで見ようかな・・ さっきのタケノコ岩のあるあたりに行ってみようかしらん・・

おっ、まぶしい空にくっきりカモメのシルエット。
鳴き声が目の前を横切ってゆく。

枕状溶岩に静かに寄する波。


徐々に濃い色に染まる空。
お日様の下に、上に、カモメが舞っている。
お日様がまぶしい。

一瞬、お日様から一筋の光の回廊が・・・
海面のキラキラとつながった・・・

身体を南方向によじって見ると、ブルーの色も濃くなってきた。
2000万年前海底だった海岸はところどころ反射しながら海苔のグリーンにオレンジ色が混ざっている。
あ、北から南に伸びる飛行機雲!

望遠で覗くと、雲をずーっといっぱい吹き出しながら旅客機が進んでいる。
座席からは下に沈みつつあるお日様がまぶしく見えているんだろうね。


昼間見た神子岩のシルエットも徐々にパステルの色の中にうっすらとなってきた。

この枕状溶岩一帯の佐渡の最西端にある沢崎鼻灯台。
すっと一本先端に立っている。

高さ24mを超える八角形の灯台。ぐるっと照らされてゆく灯台の光を見ると何故かホッとする。
この灯台、初代は1928年(昭和3年)に完成。1987年(昭和62年)に二代目。
佐渡への航路は新潟から両津が今は多いのだけれど、古くからは直江津から小木航路が盛んで小木へと向かう船が視認する第一の標識がこの灯台だったんだそう。
夫の鉄幹が亡くなる一年前の1934年の夏、与謝野晶子は夫と共にこの船に乗って佐渡を訪れた。その時、この灯台のことを詠んでいる。
「沢崎の 灯台に身を なぞらえて はし鷹立てり 一つの岩に」
もしかしたら海からこの灯台を眺めながら詠んだのかもしれない。一人で周囲を見まわしている自分みたい・・と。

おー。落ちる、もうすぐ。
水平線に近づいてきた。
上にはまた飛行機雲の一筆。

お日様の前をすーっと通る薄い雲。一瞬、光りがやわらかくなった。

雲を過ぎて更に落ちると今度はキラっとまぶしく・・
そして深い赤に・・

そして日本海に沈んでいった・・・
今日も素敵な一日をありがとう。佐渡!
“ 小佐渡の大ドラマ ”
佐渡の地形は「エ」の字のカタチ。
下の横棒は小佐渡。上の横棒は大佐渡。
今回はその小佐渡。
カタカナの「エ」と同じように下の横棒は上の横棒より長く、その左端は佐渡全体の最西端となる。
日本海に面し、日の出は海から上がり日の入りは海に沈む。
水平線でのお日様のドラマはなかなかの絶景なのだ。
それにしても目の前に繰り広げられる1300万年から2000万年前の海底噴火の名残景色は凄い。枕状にしみ出した一面の溶岩がそんな昔のものとは思えないのでなおさら。
タケノコ岩は遠目には最初、何か全く想像もつかなかった。
それが目の前に近づいてきた時、オーストラリアやアフリカの画像に出てくる巨大な蟻塚なのかと身構えてしまった。 月面?とも思ってしまう海岸線は隆起し続けついに空気中に姿を現した溶岩噴出の痕。
そんな地球のドラマの舞台は岩海苔産地になっている。
その上を駆けてゆくまさかの動物のテン。
僕と生き物同士の目と目が合って、何秒か後にはそのままサヨナラしたんだけど・・。
これまたビックリ! 佐渡で一番長ーい砂浜エリア、素浜(そばま)。佐渡の海の先入観を打破してくれた。流れ着いたクルミ。何故か真っ二つに簡単に割れる石たち。大きな牡蠣殻。
そして最西端には与謝野晶子も歌を詠んだ、一人立ち尽くす灯台。
その灯台からの日没。すごかった。
でも寂しさとか哀しさとかは僕はあまり感じなかった。
海から出て海に沈むお日様。
その海には生き物が沢山いるし、その上には美しく飛ぶ鳥たちもいる。
海の底には刻まれた地球の歩み。
小佐渡ではいろんな命やエネルギーを沢山感じる。
毎日このドラマの中で生きていると自然とつながっている自分に気づくし、自分の存在を過大に錯覚することもない。
立春が過ぎて今度はどんな楽しみに遭遇するだろう?
ありがとう。佐渡。
Photos, essay by T. T. Tanaka
